東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)3号 判決 1975年10月29日
原告
朝倉勝一
右訴訟代理人弁護士
能村幸雄
中村稔
被告
ユニチカ株式会社
右代表者
小幡謙三
右訴訟代理人弁理士
児玉雄三
主文
特許庁が昭和四七年九月二一日同庁昭和四二年審判第五四五〇号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実<抄>
第一 当事者の申立
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として次のように述べた。
(審決の成立―特許庁における手続)
一、原告は昭和四〇年六月二六日出願し、昭和四二年三月一八日登録番号第二六八九二五号をもつて登録され、「保温着」を意匠にかかる物品とする別紙第一図面記載の意匠の権利者であるが、昭和四二年七月二七日被告からその登録を無効とする審判の請求(同年審判第五四五〇号事件)がなされ、特許庁は昭和四七年九月二一日「右意匠の登録を無効とする」旨、主文第一項掲記の審決をし、その謄本は、同年一二月一六日原告に送達された。
(審決の理由)
二、右審決は、その意匠の要旨を「底面をほぼ正方形とし、上面穿口部もしぼつた形でほぼ正方形とし、これを側面からみると、後半が前半よりやや高く形成された形で、主体部周側面が腰から膝にかけて外方に膨れた形をした袋状に形成し、その正面中央において、上縁から高さの半ばよりやや下方にかけてチヤツクを設け、その上方部の左右に、口縁が両側方に下向傾斜したポケツト口を配し、一側方の下辺にコード口孔を設けた形態からなり、なお、表面に中間調子、内側に明調子の布を使用した綿入布帛製で、全面に菱形網状のステツチを施した態様からなるものである。」と認定したうえ、次のような理由を示している。
右意匠の出願前実用新案公報昭和三八―一三一三一号に示された考案の対象たる椅子掛用脚部保温袋の別紙第二図面記載の形態(以下、「引用意匠」という。)は底面を長方形とし、上面をほぼ同形の穿口部とし、主体部周側面が腰から膝にかけて外方に膨れた形をした袋状に形成し、その正面中央において上縁から高さの半ばよりやや上方の部分までチヤツクを設け、その上方部の左右に口縁が両側方に下向傾斜した手を入れるためのポケツト状の縁部を配し、なお、一側部の底辺から縦に短いチヤツクを設けてこたつの出し入れ口とし、上部腰の部分にベルト通しを取り付けて紐を通した態様からなるものである。本件意匠は底面を四角な台板状とし、上面をほぼ同形の穿口部とし、腰から膝にかけての周側を外側に膨れた形をした袋状に形成し、その正面中央において、上縁から深く切り込みを設け、チヤツクを取り付け、その上方部の左右に、口縁が両側方に下向傾斜した切口を設けてポケツト状に縁部を配した基本的構成形態において引用意匠と一致するが、その部分はまた最も看者の注意を引き引用意匠との類似感を誘発する意匠の支配的主要部と認められる。なお、両者間にみられる穿口部の前後部の高さ、下部のコード取入れ口の態様、底面の形状等の差異は物品全体として観察すれば、部分的小差にとどまり、ポケツトの有無も外観上さして顕著なものではなく、また、穿口部のバンド通しの有無、ステツチ及び布地色調の濃淡の有無等の差異もこの種物品にみられる特徴のない常套的形式による意匠創作上第二義的なものであつて顕著なものではない。したがつて、本件意匠は引用意匠と全体として類似し、その物品においても同一であるから、意匠法第三条第一項第三号に違反して登録されたものといわなければならない。<以下略>
理由
一前掲請求原因のうち、原告を権利者とする本件意匠につき、出願から登録を経て登録無効の審決の成立にいたる手続、審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二そこで、右審決に原告主張の取消事由があるかどうかについて判断する。
本件意匠及び引用意匠にかかる物品がともに保温着であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、両意匠は主体部周側面の形状に関する部分を除いて、右審決認定のような構成及び一致点を有する(ただし、後記の点を除く。)ことが認められる。
しかし、右審決は両意匠の一致点とした底面部、穿口部の各形状、チヤツク、ポケツト状切口の各取付けをもつて基本的形態であつて、最も看者の注目を引き類似感を誘発する意匠の支配的主要部であるというが、以上の諸点はいずれも対象物品たる保温着の用途、機能に伴う必然的形状ともいうべきものであるから、これが一致するというだけで、他の点の意匠的工夫、創作を顧慮することなく両意匠の類否を決定するのは正当ではないと考える。
しかるに、本件意匠の図面及び引用意匠によると、両意匠の主体部周側面の正面(背面も同様)は本件意匠においては穿口部から底面部へかけて、外方に向つてゆるやかな膨らみがあり、その全体の輪廓が上下に両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状をなしているのに対し、引用意匠においては上半の腰部に当る部位にこそ外方への膨らみがあるが、その部位の下端から底面部にかけてはほぼ垂直で、その全体の輪廓があたかも腰の部分が膨らんだありふれたズボンの股下部をつなぎ合せたような形状をなしている(この点で、引用意匠の構成及び本件意匠との異同に関する右審決の認定は誤つている。)こと、また、両意匠の穿口部の側面は本件意匠においては人体の後部に当る部位が同前部が当る部位より相当高い形状につくられるのに対し、引用意匠においてはその部位により、さような段差はなくほぼ水平につくられていることが認められる。
そして、これらの点はいずれも両意匠において物品の正面(背面も同様)又は側面から見た輪廓を形づくり又は背面における外観を成りたたせるものであつて、それだけに、直ちに看者の目を惹きつける相違点であるといわざるをえない。
そうだとすれば、本件意匠と引用意匠とは前示のような一致点を超絶して、なお看者の受ける美感を異にするものがあるから、全体的に観察して非類似であると解するのが相当である。したがつて、本件審決は両意匠の類否に関する判断を誤り、これに基づいて本件意匠の登録を無効とした点で違法であるから、取消を免れない。
三よつて、その取消を求める原告の請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(駒田駿太郎 中川哲男 橋本攻)
別紙<省略>